MaaS関連サービス

2023.09.04

「Moovit」―イスラエル発、公共交通のシームレスな移動体験を実現するアプリ。


イスラエル発のMaaSアプリのプラットフォームである「Moovit」と、日本の大手総合商社である丸紅が、都市の交通課題解決を目指す共同プロジェクトに取り組んでいます。今回は、MaaSアプリ「Moovit」のサービス内容やMoovit社との協業の背景や今後の展望について、丸紅株式会社の朝倉様にお話を伺いました。

お話をお伺いした方
丸紅株式会社 産業システム・モビリティ事業部 モビリティ事業第三課
課長補佐 朝倉謙 様

公共交通の乗り換え案内アルゴリズムを自社開発して誕生した「Moovit」

――Moovit社の事業やサービスについてご紹介いただけますでしょうか。

朝倉様:Moovit社は、イスラエルに本拠を置く交通専門のソフトウェア開発会社で、約400人のエンジニアを中心とした従業員が働いています。2012年に設立され、世界中で使える公共交通の乗換検索サービスから事業をスタートさせています。

乗換検索サービスは日本では20年前から一般的で、例えば新宿駅などの複雑な乗り換えでも問題なく検索できますが、海外ではそうはいきません。そこで公共交通の乗換検索アルゴリズムを自社で開発し、GTFSという標準フォーマット規格のデータを取り込むことで、どの街でも機能する乗換検索アプリを立ち上げました。これがMoovit社の事業の始まりです。


朝倉様


――Moovitのサービス展開を日本で始めた背景やきっかけを教えてください。

朝倉様:私が所属する産業システム・モビリティ事業部は、自動車ビジネスを主軸に、輸出や三国間トレードなどを行ってきました。また、海外のディーラー事業や、アフターパーツの卸売・ラストマイル物流事業にも出資しています。そのような中、今自動車業界は百年に一度の変革期にあり、MaaSという概念の元、車を所有するのではなく、サービスとして利用する時代が到来しています。この変化に対応するために、我々は従来のビジネスに加えMaaSをはじめとした新規領域へも積極的に取り組んでいます。

その一環として、MaaS事業を進めるパートナーとして、グローバルで実績のあるMoovit社と提携しました。Moovit社は、全世界でのオリジナルアプリの普及やアプリを基軸としたMaaSの先進事例、自動運転までを見据えたビジョンがあります。我々はそのビジョンに共感し、パートナーとして日本市場での取り組みにいたりました。

――Moovitの主な特徴や強みを教えてください。

朝倉様:Moovitの強みは、お客様のご要望や、抱えている課題に対して様々なご提案ができることです。経路検索アプリだけでなく、様々なプロダクトやソリューションを提供しています。昨年度から始まった実証運行で提携している石狩市様では、Moovitの経路検索アプリに加えオンデマンド交通システムを採用いただいています。このシステムは、お客様がアプリや電話で配車予約を行い、AIが自動で予約情報を加味した効率的なルートを生成するシステムです。

その他のソリューションとしては、QRコードをはじめとするデジタルチケットをオンデマンド交通や既存の公共交通に導入することで、例えば全ての公共交通を定額で利用できる等公共交通の利用を促進する新しい料金体系を導入することも可能です。さらに、人流分析に基づく計画作りや、全世界で15億ダウンロードを達成したオリジナルアプリのマーケティングに関わる知見も提供可能です。


朝倉様


――オンデマンド予測やルートなどは、どのような技術やアルゴリズムを用いて最適化を行っているのでしょうか?

朝倉様:Moovitのオンデマンド交通システムは、複数の車がエリア内を動き、複数の人が同時に予約をする状況を想定しています。それぞれの車と予約者のマッチングにおいて、予約者の待ち時間や乗降場所までの徒歩距離、運行の効率性等、無数のパラメーターを用意しており、運行事業者であるお客様のご希望に応じた優先順位付けを行い、それに従った配車を行うことでお客様が意図するサービスの構築を可能にします。

――それは、どのパラメーターを優先するかも調整できるのでしょうか?

朝倉様:はい、Moovitの最大の強みは、顧客のニーズに応じてサービスをカスタマイズできることです。例えば、運賃が高くても直線距離で移動したい人もいれば、遠回りでもいいから安く移動したい人もいるかと思います。これらの要望は時間帯やエリアによって変わるため、Moovitはこれらを素早くカスタマイズして対応することができます。これは運行開始前の初期設定だけでなく、運行中を通して寄せられるお客様の声を聞きながら、サービスを実態に合わせて調整することが可能です。

もちろん、日本には日本の交通事情があると思うのですが、海外ではオンデマンド交通が進んでいます。特に、イスラエルのハイファでは一都市の道路交通を最大50台の車で担うサービスを提供しています。その際のパラメーター設定やサービス形態などの知見も我々のサービスとして提供することが可能です。


朝倉様

実証実験で得られた課題とMoovitの最適化

――石狩市様の実証実験もありましたが、企業や自治体がMoovitを導入するメリットについてお聞かせください。

朝倉様:公共交通やオンデマンド交通は、コロナによる影響も受け変革期にあると言えます。交通事業は収益性の維持・向上が年々難しくなっています。効率的な運行が困難になり、人手不足で運行できないエリアも増えています。この状況を受け、今後ますます主に自治体様を中心により効率的な運行手段であるオンデマンド交通のニーズが高まると考えています。自治体様の状況に応じて、最適なオンデマンド交通を設計し、計画段階から支援させていただくことも、我々のソリューションの一つであり、運行計画だけでなく、効率化と負担軽減を目的とした事業計画も支援させていただきます。

またMoovitはオンデマンド交通だけでなく、5年、10年、20年先を見据えたMaaSプラットフォームを提供できることが一番の特徴となります。決済やデジタルチケット、公共交通との接続性などをプラットフォーム上に盛り込み、自治体様が目指す地域に根差したMaaSを共同で作り上げることが我々の提案であり、Moovit導入の最大のメリットです。

――公共交通におけるMoovitの活用として、どのような動きがあるのでしょうか?

朝倉様:例えば石狩市様では、地域の路線バスを担う北海道中央バス様に協力いただき、公共交通のデータ(GTFSデータ)をMoovitと連携しています。これにより、バスの乗り換え検索やオンデマンド交通と路線バスの乗り継ぎ検索を実装しています。

オンデマンド交通は石狩市様内の一部エリアのみを対象としていますが、例えば札幌市まで行きたい人でもバス停までオンデマンド交通で移動し、路線バスに乗り継ぐ経路を提供することでアクセスを向上することができます。また、北海道中央バス様のバスロケーション情報とも連携することで、バスの遅延情報などを考慮した情報を提供できています。


Moovitの活用イメージ


――これまでの実証実験で利用者や提携企業からどのようなフィードバックがありましたか?また、Moovitのサービス向上にどのように役立てているのでしょうか?

朝倉様:例えばオンデマンド交通を採用いただいている石狩市様の特徴は、市内移動だけではなく通勤にも利用されていることです。石狩湾新港地域という約2万人がお勤めの工業団地への通勤手段を効率よく運行するためにオンデマンド交通が導入されました。通勤用途なので立地企業様の定時時間にあわせたシビアな運行時間の計算が求められます。当社とMoovitは道路情報や渋滞情報を読み取り、正確な移動時間を計算するために、何度もトライアンドエラーを繰り返して、通勤時の時間厳守の課題に対応しています。

利用者は若者から高齢者まで多岐にわたりますので、アプリのユーザーインターフェースはMoovitが自社でリリースしたものを、日本の利用者向けに調整しています。また、アプリ利用に馴染みのないシニア層のお客様からの電話対応にはTMJさんにサポートいただき、分かりやすい案内を提供しています。

石狩市様のアンケートでは、利便性やサービスの満足度が非常に高く、9割の人が満足していて、「また利用したい」という回答を得ています。しかしサービスはまだまだ導入初期のため、初回利用に至るまでをどうアプローチするかという課題も残っています。今年度(2023年度)は、石狩市様で9月から実証実験の拡大版を開始するのですが、地域の事業者とも連携して、よりご利用いただけるような機会を当社からも提案していく予定です。そこにプラットフォームとしてのMoovitの技術を活用して、より利用者との接点がスムーズにいくような施策を石狩市様と検討しています。


朝倉様


――Moovitの導入を検討している企業や自治体は、どのような準備や検討が必要でしょうか?

朝倉様:地域によって抱えている交通課題などは様々だと思いますし、我々としては「何でもご提供できる」というのが強みなので、どのようなお話でもお話をお聞かせていただきたいと思っています。

――今後のオンデマンド市場や交通インフラの動向、丸紅様が果たす役割についてどのように捉えていますでしょうか?

朝倉様:私たちは総合商社として、様々なビジネスモデルを検討しています。現在特に注力しているのは、オンデマンド交通やMaaSのエコシステムを構築することです。具体的には、MaaSアプリを一つの地域から他の地域へと展開し、それがどの地域でも機能するようなシステムや環境を作り上げることを目指しています。また、自動運転の世界への取り組みも視野に入れています。自動運転が実現すると、ソフトウェアだけでなく、車自体やそのメンテナンス、遠隔監視やオペレーションの方法など、新しい交通サービスの裏側にある要素も変わってきます。私たちはこれらの環境整備を行いパッケージ化し、自治体様や交通事業者様といった自動運転サービスを運行されるお客様に対して提供することを目指しています。

さらに、車の電動化にも力を入れており、EV(電気自動車)メーカーとしての取り組みや、フリートマネジメントと呼ばれる車両の所有とメンテナンスを合わせて提供しています。これには、EV特有の充電器やエネルギーマネジメントも含まれています。これらの取り組みを通じて、私たちは新しい交通サービスのエコシステムを構築し、社会に貢献していくことを目指しています。

丸紅が取り組むモビリティ事業

丸紅が取り組むモビリティ事業


――最後に、今後のMoovitのサービス展開についてお聞かせください。

朝倉様:我々は、多くの自治体様や企業様との関係を深めて事業を拡大していくなど、まずは日本での実績を積み重ねていきたいと考えています。石狩市様の通勤問題は、他の工業地域でも共通して見られる課題でもあるので、石狩市様の経験を活用して、様々な地域における課題の解決策を展開したいと考えています。また、決済やチケットシステムといった分野についても、MoovitのMaaSアプリを起点に、より低コストで迅速な実装が可能であると考えています。

市場としてはアジアパシフィック市場への拡大を目指しています。課題先進国と呼ばれる日本において成功事例を重ねることで、アセアンやオセアニアといった地域に展開できると考えています。


朝倉様

交通分析

(Moovit Urban Mobility Analytics)

オンデマンド交通

MaaSアプリ

自動運転向けUI/OI

  • O/Dデータ分析(人流トレンドの可視化)
  • 公共交通のサービスレベル分析
  • オンデマンド交通の導入シミュレーション
  • 相乗り計算を含む自動配車機能
  • ユーザー用予約アプリ、乗務員用ナビゲーションアプリ、管理システムをパッケージで提供
  • 公共交通、ライドヘイリング、マイクロモビリティ、オンデマンド交通を含む複合経路検索
  • 電子チケット、決済機能との連携
  • 統合型料金体系の導入
  • 遠隔監視機能(センサー+カメラ)
  • EV用充電管理機能
  • 自動運転サービス向けUI(開錠等)

■オンデマンド交通システム構成図

オンデマンド交通システム構成図

Moovit App Global. Ltd,

【会社名】 Moovit App Global. Ltd,
【設立】 2012年
【所在地】 Rehovot, Israel
【株主】 Mobileye
【事業内容】 MaaSアプリとオンデマンド交通システムを中心とした交通系ソフトウェアの提供

Moovit社

丸紅株式会社

丸紅株式会社は、総合商社として幅広い事業領域を展開しています。
特にMaaS(Mobility as a Service)事業では、公共交通のデジタル化を推進し、人々の移動をより便利で快適にする取り組みを行うと同時に、都市の交通問題の解決や地方創生にも貢献しています。丸紅は、新たな価値創造と社会課題解決を目指し、持続可能な社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。

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