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2023.03.01

通勤も、生活も、いつでも快適な移動を!石狩市がオンデマンド交通の実証運行をスタート

石狩市で202210月からスタートした「いつモ」の実証運行について体験して感じたことをレポートします。後半では、サービス設計の工夫や課題などについて担当者にお話しいただきました。

石狩市のオンデマンド交通「いつモ」

今回体験するのは、北海道石狩市が実証運行を実施する市街オンデマンド交通「いつモ」です。

石狩市ってこんなとこ!
石狩市章

石狩市の西側一帯は石狩湾に面しており、市内には石狩川が流れる、水に恵まれた環境にあります。石狩湾新港とその後背地に総面積約3,000haの工業流通団地を要し、北海道における産業・物流面での重要な拠点機能を担っています。現在、石狩湾新港地域には700を超える企業があり、約2万人が就業していますが、就業者の通勤手段における公共交通の利用率は全体の約2%に留まっています。また、市街地においても路線バスの利用が減少傾向にあります。こうした公共交通の課題に対する施策として、オンデマンド交通の導入が検討されています。

石狩市webサイト

今回利用するサービス
サービスロゴ

石狩市、北海道中央バス株式会社、ダイコク交通株式会社、三和交通株式会社、石狩湾新港企業団地連絡協議会、丸紅株式会社、Moovit App Global. Ltd、株式会社TMJの8社が2022 年10 月 から 2023 年 3 月まで実証運行を行うオンデマンド交通サービスです。「通勤オンデマンド交通」と、市街地を移動するための「市内オンデマンド交通」の2つのサービスを提供しています。いずれもアプリでの利用が可能で、「市内オンデマンド交通」に限っては電話での予約も受け付けています。予約をしたら、自宅近くで乗車できるので便利。長い時間並んで待つ必要がなく、必ず座れるので安全で快適です。

「いつも」サービスサイト

オンデマンド交通で雪道を移動!

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冬本番、北海道の道路は全面に積雪があり、アスファルトは全く見えません。今回はそんな厳しい環境でも安全に運行する「いつモ」の市内オンデマンド交通を利用しました。

アプリで乗車場所・降車場所を設定
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乗降車場所は地図で選べるほか、周辺の施設名の検索から選択することができます。施設名を入力して検索すると候補のリストが表示されました。場所が設定できたら、最後に乗車時間を設定して予約をします。アプリの地図上では、こちらに向かってきているバスの位置や到着時刻がリアルタイムで更新されます。

この厳しい寒さの中、バス停の横で凍えながらバスが来るのを待つなんてことは、できればしたくありません。リアルタイムで更新される情報を確認しながら、ギリギリまで暖かい屋内で待機できるのはとてもありがたかったです。

施設の近くまで
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乗車場所は、既存の路線バスのバス停だけでなく、アプリ上のマップ内で確認できるバーチャルバス停を指定することもできます。バーチャルバス停は市役所やスーパーのように、市民の利用頻度の高い施設の近くに設定されており、施設を出てすぐにバスに乗れるようになっていました。

買い物帰りに荷物を持って雪道を歩くのは、不安定で大変です。施設のすぐ側までバスが送迎してくれるのであれば、その不安も軽減されると思いました。

「いつモ」専用の待合室
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「イオンスーパーセンター 石狩緑苑台店」には専用の待合スペースがありました。暖かい室内にはテーブルとベンチがあり、バスが来るまで荷物をおろして座って待てるようになっています。

安全で快適に利用できるサービス
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路線バスと比較して、バンタイプの「いつモ」車内はコンパクトで空調が効きやすいのかとても暖かかったです。また、運転士の皆さんは雪道の運転に慣れているのはもちろん、安全運転のプロなので安心して乗車できます。

自家用車での移動となると、雪を除けて窓ガラスを拭いて、車内を温めて…といったことをしなくてはいけません。石狩市内の移動であれば、「いつモ」の利用が安全でお手軽です。

8社協同で創る交通サービス

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今回は石狩市の担当者にお話を伺いました。

石狩市 企画経済部 企画課交通担当
課長 上窪 健一さん(右)
主査 江畠 紀和さん(左)

サービスコンセプトは「いつでも つながる モビリティ」

――石狩市のオンデマンド交通「いつモ」についてお聞かせください。

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上窪 健一さん

上窪さん:2022年10月3日から「いつモ」というサービス名でオンデマンド交通の実証運行を行っています。
実証運行では、石狩湾新港地域への通勤を目的とした「通勤オンデマンド交通」と、買い物や通院など、市街地内の移動を目的とした「市内オンデマンド交通」の2つを運行しています。
利用に当たっては、いずれもスマートフォンアプリをダウンロードして会員登録をしていただき、予約の上、ご利用いただきますが、「市内オンデマンド交通」についてはカスタマーセンターにお電話をいただいて予約をすることもできるようにしています。
なお、この実証運行は2023年3月31日まで行います。

――「いつモ」という名前の由来を教えてください。

江畠さん:「いつモ」という名称は、サービスのコンセプトである「いつでも、つながる、モビリティ」の頭文字をとって名付けました。ロゴマークは、バスと石狩川の青と森林の緑をイメージしています。

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主査 江畠 紀和さん

地域課題の解決策としてオンデマンド交通に着目

――オンデマンド交通の導入を検討したきっかけを教えてください。

上窪さん:石狩市では交通に関する2つの課題があります。
ひとつは、石狩湾新港地域の石狩工業団地への通勤手段です。現在、同工業団地には約700の事業者があり、2万人を超える方が勤務しているのですが、98%の方がマイカー、もしくは企業の送迎バスを利用して通勤しており、公共交通機関を利用している方は2%しかいません。通勤のための交通手段が少ないため、人材を採用したい企業やこれから働きたいと考えている方から、マイカー以外の移動手段が欲しいという声が数多く寄せられていました。

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もうひとつは、市街地を走る路線バスの利用減です。花川北地区では住民の40%が高齢者です。この方たちは、今はマイカーを運転することができても10年後、20年後には運転できなくなります。そのため、利便性が高く、効率的に移動できる新たな交通システムが求められていました。
この2つ課題の解決手段として、オンデマンド交通に着目したのです。

――なぜ、オンデマンド交通に着目されたのでしょうか?

上窪さん:路線バスは、定時に決められたルートを走ります。そのため、料金は安価です。一方、タクシーは好きにルートを選べて自由度が高い分、料金も高いです。路線バスとタクシーの中間であるオンデマンド交通であれば利用しやすいのではないかと考えたのです。

利便性を最優先にサービスを設計

――今回の実証運行では、どのような点に留意されましたか?

上窪さん:やはり、利便性を最優先に考えました。通勤用は、最寄駅となる地下鉄麻生駅とJR手稲駅で乗り降りできるようにして、両駅から直接、勤務地へ乗り入れるルートにしています。
市内用は、最寄りのバス停、コンビニ、郵便局などをミーティングポイント(乗降場所)として設定し、ミーティングポイント名に施設名を使用することで分かりやすさに努めています。また、アプリ内の地図からミーティングポイントをタッチすることで直感的に乗降場所を予約できるようにしました。
運賃設定も工夫しました。市内用はワンプライスで300円にしています。利用者アンケートでは、「安い」とか、「お手頃価格」というお声をいただき、手ごたえを感じています。

――ユーザーアプリにMoovitを選んだ理由についてお聞かせください。

上窪さん:Moovitは、イスラエル発のMaaSアプリのプラットフォームで、工業地帯におけるオンデマンド交通が普及しているイスラエルでの実績があります。また、拡張性が高くオンデマンド交通と複合路線検索が同じアプリ内ででき、公共交通とオンデマンド交通を組み合わせたシームレスな移動体験を提供できること。さらに、地域情報などを盛り込めるため発展性があります。将来的には地域の活性化にも大きく貢献することのできるシステムだと思い、採用を決めました。

――北海道の冬といえば雪です。雪道の運行で対策していることはありますか?

上窪さん:市役所の危機対策部門が、気象庁からの荒天に関する情報を共有してくれており、安全に運行できるよう関係者間で確認し、必要な対策を取るようにしています。今季は、運搬排雪(除雪作業)を例年より早く行い、道路環境を整備しました。幸い、荒天でルートを変更するといったことは発生していませんが、石狩湾新港地域は吹雪が多いため、吹雪を想定して準備しています。

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アプリ説明会を開催し高齢者の利用を促進

――今回の実証運行で、すでに顕在化している課題はありますか?

上窪さん:まず、オンデマンド交通の認知度です。PRはしているものの、まだ知らない方も多いので、継続的なPRが必要だと思っています。利用者アンケートで、今までマイカーを使っていた方が「いつモ」に転換するケースも見られました。同様のケースが増えれば、脱酸素、環境負荷軽減という効果も得られるはずです。今後は、環境保全の観点からも公共交通の利用を呼び掛けていけると思いました。
次に、通勤用の運賃設定です。通勤用では、距離に応じて400円から800円までをお支払いいただいているのですが、利用者のご意向を聞きながら、適正な料金を設定できるよう、検討を重ねていく考えです。

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江畠さん:通勤用に関しては、まだまだバスの絶対数が足りていません。朝夕に増便できれば、非常に使いやすくなるでしょう。

――先行するオンデマンド交通運行会社に共通する課題として、アプリ利用の促進が挙げられます。これについて「いつモ」ではいかがですか。

上窪さん:高齢の方から、「アプリの使い方がわからない」という声が寄せられているのは事実です。そこで、地域の集会所などへ出向いて、アプリの説明会を行っています。
デジタルトランスフォーメーションが進んでいる今、生活の中でスマートフォンを活用するシチュエーションがこれからも増えていくでしょう。「いつモ」の利用が、高齢者がスマートフォンを使うきっかけになるといいですね。

利用者の生活の質を高めたい

――実証運行後の取り組みなど今後の展望についてお聞かせください。

上窪さん:持続可能な交通運営には、利用しやすいことが大事だと思うのです。まずは、ひとりでも多くの方に「いつモ」をご利用いただくこと。そして、アンケートを通じてたくさんの声を収集し、サービス改善に生かすことで、皆様にお使いいただけるサービスに育てていきたいです。
現在、通勤用は企業に、市内用は利用者にアンケートを実施しています。市内用のアンケート結果をみると、「いつモ」があることで新たな目的が達成できたという回答があり、非常に手ごたえを感じています。目的地に行くための手段としての交通がある一方、交通手段があるからそこへ行こうと思うように、目的と交通手段には相関関係があると思うのです。双方を担保して、利用者の生活の質をより一層、高めていきたいとも考えています。

江畠さん:「いつモ」が皆様の身近な交通手段として使われるように、また、石狩市だけでなく、ほかの街も含めてオンデマンド交通がたくさん走る未来にしたいと考えています。
現在行っている実証運行は、そのための布石でもあるのです。

――本日は、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

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