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2026.03.09

中山間地域のバス路線廃止を受けた公共交通再編策―相模原市乗合タクシー(神奈川県相模原市)

神奈川県相模原市

神奈川県北部に位置する政令指定都市で、人口は約72万人と横浜市、川崎市に次ぐ県内第3位。相模湖や津久井湖など豊かな自然が広がる西部の「緑区」、行政機関やJAXAのキャンパスがある「中央区」、相模大野駅を中心に商業施設や住宅街が広がる「南区」の3つの区で構成され、東京都心へのアクセスの良さと豊かな自然を併せ持つベッドタウンとして発展してきた。JR、京王線、小田急線が乗り入れ、圏央道により車でのアクセスも良好。橋本駅付近にリニア中央新幹線の駅が設置される予定で、さらなる発展が期待されている。

お話いただいた方

相模原市 都市建設局 まちづくり推進部
参事(兼)交通政策課長 長澤 孝 様(左)

相模原市 都市建設局 まちづくり推進部 
交通政策課主査 山下 知宏 様(右)

デマンドと定時定路線型の運行を併用

――相模原市で実証運行中の乗合タクシーについて教えてください

長澤 様

相模原市では平成21年(2009年)から乗合タクシーを運行してきましたが、路線バスの廃止を見据えて昨年(2025年)10月から乗合タクシーの新たな実証運行をスタートしています。通常の路線バスは、決まった時間に決まったルートを走る「定時定路線」ですが、乗合タクシーは原則として利用者の予約に応じて運行するため「デマンド」と呼んでいます。これまでは停留所と時刻表のみを定め、予約に応じた運行をしていましたが、今回の実証運行では定時定路線など地域の実情に合った運行としています。基本的には停留所のみを定め、経路を指定せずに利用者のニーズに応じて運行する乗合交通です。ダイヤ設定のある地区は時刻表で乗りたい便を決め、運行業者に電話で予約内容を伝え、停留所で乗合タクシーに乗車する、という流れです。予約はウェブでも可能です。

対象は市内の中山間地域に該当する5つのエリアで、停留所は約290カ所あり、タクシーとワゴンタイプの計5台が運行しています。運賃は原則1エリア内の移動で900円で、市民や市内在勤・在学の方で利用登録いただいた方は1エリア500円となります。複数の地区をまたぐ利用の場合、2地区目以降の運賃は半額です。

現在は利用登録者数は約1,900人です。市外の方でも予約していただければ利用登録しなくても利用できます。

――特定の時間帯は定時定路線で運行されているのですね

山下 様

今回の実証運行では、デマンドと定時定路線型を併用しています。対象エリアの朝の時間帯は定時定路線で運行しており、予約不要で利用できます。通勤・通学の時間帯に利用する場合、毎日予約を入れないと乗車できないのは不便だからと考えましたが、運行形態については実証運行期間内に見直すことも検討しています。

長澤 様

例えば、対象エリアの一つである青野原・青根地区においては、現在は午前9時までの5便は定時運行しています。午前9時以降はダイヤが設定してありますが、予約をしないと利用できません。さらに、午後はダイヤが設定されておらず、予約した方が希望の時間に指定の停留所に車両を呼んで利用する形になっています。

つまり「定時定路線」「ダイヤ設定ありの予約制」「ダイヤ設定なしの予約制」という3つの組み合わせで運行している地域もあるということです。

――対象のエリアはどのような特徴のある地域なのでしょうか
長澤 様

市内の西側に位置する中山間地域です。具体的には、先ほどの「青野原・青根地区」の他、「根小屋地区」「内郷地区」「吉野・与瀬・牧郷地区」「菅井・篠原・和田地区」になります。人口減少が著しく、高齢化も進んでいる地域です。高齢化率は、市内全体平均が26%なのに対し、このエリアは約40%に達しています。高齢者の免許返納も進んでいる中で公共交通に対する期待感は高い地域です。

一方で、10年以上前からバス路線が減便していることもあり、自家用車が移動のベースになっている地域でもあります。

バス路線廃止を見据えて検討スタート

――実証実験がスタートした経緯について教えてください

長澤 様

対象のエリアで運行されていたバス路線の廃止の申し出が運営会社からあったためです。令和6年(2024年)6月、市内のほとんどのバス路線を担う神奈川中央交通からバスの運転士不足を理由に、減便を含めた見直しを行いたい旨の申し出がありました。市からも再考の申し入れを行うとともに、存続に向けて協議を重ねてきましたが、令和9年(2027年)3月末までに13路線のうち11路線が廃止の予定となっています。

そのため、路線バスの代替となる公共交通の検討が必要になりました。実証運行のスタートが決まるまでに複数回の住民説明会を開催し、地域の方々の意見も聞きながら協議を進めていきました。もともと乗合タクシーを導入していた地域もあったため、そのエリアを今回の対象範囲に拡大させる形でスタートさせることになりました。

山下 様

実証実験スタートに際して、AIオンデマンドシステムの導入も検討するため、既に導入実績のある自治体の視察にもうかがいました。しかし、抱えている事情や地域の特性も異なりますので、先行事例をそのまま相模原市に当てはめることはできませんでした。

本市の場合、現在のバス利用者をフォローしつつ、移動需要が少ない昼間の時間帯のニーズも幅広く拾いたいという事情がある一方で、あまり類似する事例がなかったこともあり、大枠は他自治体の例を参考にしながらも独自で枠組みをつくっていきました。システムに関しては、ウェブで予約受付ができて自動で配車でき、フルデマンドとセミデマンドを併用できるような環境構築ができることを条件とし、一般競争入札で選定いたしました。

サービス認知度の向上目指す

――実証運行をスタートさせての所感を教えてください

長澤 様

もともと運行していた乗合タクシーよりも運賃を値上げしている影響か、利用者数は少し減少しています。ただ、以前の乗合タクシーはバスが通っていない地域の求めに応じて運行していたので、ターゲットとなる利用者はそのエリアの住民だけでした。今回は路線バス廃止に伴う乗合タクシーの導入なので、ターゲットをもっと広げて捉えています。

同時に、乗合タクシーの認知度を高めていくことも必要です。実証運行に際して、対象の地域には乗合タクシーの案内冊子を全戸配布し、市の広報誌での全面特集を組んだり、市長自ら乗合タクシーを利用してSNSで発信をするなど利用促進に向けて取り組んできました。車両が地味であることも影響しているかもしれませんが、地域交通として乗合タクシーを走らせていることを知らない人もまだまだ多いと思います。今回は、今まで乗合タクシーを利用していた人たち以外にターゲットを広げる必要がありますので、認知度を高めることは今後の課題です。

一方、実証運行をスタートさせてさまざまな改善点が分かってきたことは良かった点として捉えています。例えば定時定路線で運行してみたところ、なかなかダイヤ通りに停留所に到着しないことが検証できました。そのため、スタートから2か月後にはダイヤの見直しを行っています。便数を減らしてゆとりのあるダイヤに変更しました。

また、地域の方々との意見交換を通じて改善点を洗い出し、見直しができている点も非常に良いと感じています。例えば青野原・青根地区では、地域で立ち上がった組織と、停留所の設置場所について意見交換をしています。「国道沿いではなくて、住宅街の中に停留所を設置してほしい」という要望を受けて、実際に停留所の位置を見直しています。

地域の実情に合ったサービスを模索

――本格運行に向けた今後の展望などをお聞かせください

山下 様

運行に関しては、地域の方と意見交換しながら他の形も試していきたいと考えています。運行事業者と住民、我々の三者協働で行っていますので、運行事業者に無理のない範囲でダイヤ設定や運行形態を見直すなどの対応をしていく予定です。

長澤 様

市としては、路線バスの撤退の申し出は非常にインパクトのあるものでした。令和9年(2027年)3月の撤退までにしっかりと代替の交通を地域に導入する試みができたことは大きな成果と捉えています。その中で課題も見えてきましたが、残された期間でクリアしていきたいと考えています。

地域交通は非常に大切です。市内にもさまざまな地域がありますので、すべての地域で同じサービスを提供することはできませんが、地域の実情に合ったサービスを模索し、修正を重ねながらアジャストさせ、持続可能な移動サービスを支援していきたいと考えています。

今後、ドライバー不足による減便や路線廃止などはどこでも起こりうる問題で、中山間地域だけの話ではないと思います。その地域にどのような交通サービスが必要なのか、しっかり考えていかないといけないのだと思います。

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