MaaS関連サービス
2026.01.13
外出機会の創出で介護予防や日常生活支援につなげる―デマンド型交通高齢者等外出支援事業「えび~くる」(神奈川県海老名市)
神奈川県海老名市

神奈川県のほぼ中央に位置する人口約14万人の市。南北に長い地形で、西部は相模川沿いの平地、東部には丘陵地帯が広がり宅地開発が進む。駅周辺には「ビナウォーク」や「ららぽーと海老名」など大型商業施設が集まり、子育て支援や公園整備など生活環境の充実により若い世代の転入が増えている。海老名駅は、小田急線・相鉄線・JR相模線の3線が乗り入れる神奈川県内の主要駅の一つであり、市内から東名高速や圏央道にもアクセスでき、都心へ1時間圏内と利便性が高いことから人気のベッドタウンとなっている。
お話いただいた方
海老名市 保健福祉部 福祉政策課 福祉政策係
係長 二本木 宣彦 様
高齢者等を対象としたデマンド型乗合交通
――海老名市で実証運行中のデマンド型交通「えび~くる」について教えてください
「えび~くる」は令和6年(2024年)6月から、AIを活用したデマンド型交通高齢者外出支援事業の実証運行としてスタートしました。「えび~くる」という愛称は、「海老名」と、呼べば「来る」、それから「ビークル(vehicle)」という、乗り物の意味の英語を掛けた造語になっています。
もともとは市内の高齢者を対象に始めた事業で、高齢の方々にたくさん外に出かけていただいて、認知症予防や介護予防、あるいは生きがいづくりにつなげるために始まった取り組みです。
利用料金は基本的に1乗車お1人につき500円です。利用者のご自宅から、市内約70カ所と隣の綾瀬市内3カ所に設定された共通乗降ポイントまでの乗り降りにご利用いただけます。予約した時間にご自宅の前で待っていただくと、車両が迎えに来て、ご希望のポイントまで移動できます。乗り合いタクシーになりますので、例えば、ご近所の方が同じような目的地に、同じような時間帯に行かれる場合、その方のご自宅にも寄って、一緒に乗り合って目的地に移動する形になります。
スタートした当初は月曜日から金曜日まで祝日を含めて運行していましたが、利用の少ない祝日や年末年始の運行を取りやめる一方で、利用状況を見ながら運用を変更しています。
実証運行は令和8年5月30日までの予定です。
――利用者の要件を教えてください
実証運行開始当初は高齢者を対象としていましたが、令和7年12月からは障がいのある方や妊娠されている方、未就学児連れの親御様も対象になりました。市内在住で運行車両に自ら乗降することができる方、かつご自宅に自家用車がない方、または自家用車はあるが自由に使用することができない等、運転ができない(しない)方が基本条件となります。
65歳以上の場合は、要介護認定・要支援認定を受けている方、市の介護予防・生活支援サービス事業の利用対象の方や市の判断基準に該当する方が該当します。
追加となったのは、障がい者手帳または特定医療費(指定難病)受給証をお持ちの方と、母子健康手帳の交付を受けている妊婦の方、または未就学児連れの親御様です。
また、高齢の方と障がいのある方については、付添人の同乗が可能になりました。
高齢者の外出支援や生きがいづくりにつなげる

――「えび~くる」の実証運行が検討された背景や経緯について教えてください
海老名市は、全国の自治体と比べると、決して交通が不便な地域ではありません。鉄道は3線通っており、バス路線も比較的充実しています。市域もそれほど広くなく、丘陵地帯はあるものの交通空白地になるような中山間地域があるわけでもありません。
ただ、全国的な傾向と同様に海老名市でも高齢化が進んでいます。市内の高齢化率(65歳以上)は平成24年(2012年)度で19%ほどでしたが、10年後の令和4年(2022年)度には24%ほどになっています。
海老名市の中心市街地となる海老名駅周辺は急速に開発が進んできた場所です。その辺りはまだ高齢者が比較的少ないのですが、郊外には過去に大規模な宅地開発がされた場所が複数あり、高齢化が顕著になっています。
加えて、高齢者による自動車事故の増加も全国的に問題になっています。また、外出せずに家に閉じこもりがちになる高齢者には認知症リスクも指摘されています。
こういった背景を踏まえ、高齢者の外出を支援して介護予防、認知症予防、生きがいづくりを図るという福祉の観点からこの事業がスタートしています。
高齢者を対象とした事前のアンケートを実施したところ、自宅から目的地まで直接行くことができるサービスを求める回答が多かったことから、デマンド交通を導入する運びとなりました。
――実証運行スタートに向け、どのように準備を進められましたか
実証運行に先立ち、市内でAIデマンド交通のシステムを利用されているタクシー事業者にヒアリングさせていただいたり、実際にそのシステムベンダーや、既にそのシステムを導入してデマンド交通を実施している自治体を視察し、運用の実情をうかがいました。
共通乗降ポイントの選定については、医師会や商工会議所などの方々と調整して選定を進めました。システムに利用者情報の登録も必要になりますし、利用申請された方には、登録証を発行し郵送します。また、利用者のご自宅に迎えに行くために、ご自宅周辺の状況確認も必要になってきます。共通乗降ポイントとなっている施設やスーパーにおいても、敷地内での乗り降りに許可をいただく必要があり、各ポイントの安全性について警察に確認いただきます。
現在、海老名市内のタクシー事業者2社に運行を委託しています。既にデマンドのシステムの運用実績をお持ちの1社に、電話の受け付けを含む予約の管理や配車の指示などをお任せしています。
近隣の綾瀬市への乗り入れもスタートし利便性高まる
――実証運行中ですが、現在の利用状況や利用者の反応はいかがですか
実証運行がスタートしてから利用者は右肩上がりで伸びている状況で、現在は登録者が2,000人を超えています。ただ、1度でも利用したことがある方は半分程度です。今後、外出が難しくなった時のためにあらかじめ登録しておく方も多いからです。
電話での予約が95%を超えており、利用の多い目的地は総合病院やショッピングモール、海老名駅となっています。
利用者からは「家族に送迎を頼みづらかったので助かった」「近所のスーパーが閉店したので、買い物に行くのに助かる」「足が不自由なので、自宅前で乗り降りできるのは便利」といった声をいただいています。
――「えび~くる」の本格運行に向けて、メッセージをお願いします
2025年12月から隣の綾瀬市への乗り入れが開始し、綾瀬市役所、綾瀬厚生病院、中央公民館の3カ所が市外の共通乗降ポイントとして追加され、サービスの利便性がさらに高まります。
「えび~くる」に対しては、アンケートを通じて非常に多くの方から感謝の言葉をいただいて、我々も大きなやりがいを感じています。今後も高齢の方を中心に、多くの方が安心して外出できるまちづくり・環境づくりを進めていきたいと考えています。


