MaaS関連サービス
2025.12.22
15年にわたり市民の移動を支える―AIオンデマンド型乗合タクシー「あいのりくん」(千葉県山武市)
千葉県山武市

千葉県東部に位置する人口約4万7,000人の市で、2006年に成東町・山武町・蓮沼村・松尾町の4町村が合併して誕生した。東部は太平洋に面する九十九里浜、内陸部には農地や丘陵地が広がる。山武杉に代表される林産物が有名で、ネギやイチゴなどの野菜の生産も盛ん。九十九里浜はサーフィンなどのマリンスポーツが楽しめる観光リゾート地としても人気を集める。都心や成田国際空港へのアクセスも良好で、JR総武本線・東金線のほか、高速・路線バス、コミュニティバス、タクシーなど移動手段が充実している。
お話いただいた方
山武市 総合政策部 企画政策課 企画係
主査補 土屋 様
市内3エリアの移動ニーズに応える
――山武市で運行されているデマンド交通について教えてください
当市で運行している「あいのりくん」はAIオンデマンド交通システムを利用した乗合型のサービスです。予約を受けると、利用者のご自宅の前の道路上でお迎えし、同じような目的地の方が他にもいれば途中で経由し乗合で運行します。
山武市は広域なので、エリアを分けて運行しています。エリア分けは合併前の町村の区分けが基になっています。実際は4つの町村が合併したのですが、一部を統合して3エリアとしています。利用資格は市民の方であればどなたでも利用可能で、事前に登録していただき、お電話で予約を取ってご利用できます。介護タクシーではないので、基本的にはご自身で乗降可能な方を対象としています。
乗降場所は利用者の自宅を除き、現在約1,400カ所登録されていますが、利用者の希望に応じて順次追加しています。ただし、友人宅など自宅以外の個人のお宅はお断りしています。いろんな方が使うお店など看板があるような場所が対象です。基本的にはエリア内での移動が原則ですが、医療機関であればエリア外でも利用可能です。また、市役所など一部の公共施設等についても同様です。
利用料金は基本的に500円で、エリア外に行く場合はプラス100円です。年末年始を除いて毎日、祝日も含めて運行します。
――「あいのりくん」が導入された経緯や、どのように準備を進められてきたか教えてください

きっかけは平成18年(2006年)3月の町村合併です。合併前は旧・山武町(現・山武地域)だけで公共の巡回バスが運行されていましたが、合併を機に市全体の公平性を踏まえた新しい交通を考える機運が高まりました。
平成20年頃から本格的に検討が開始され、地域で説明会を開いてヒアリングを重ねていきました。その際に新しい交通のパターンとして3つの案がありました。1つは、山武地域で運行していた巡回バスを全域で実施する案。2つ目がデマンド交通のみの実施とする案、そして3つ目が3エリアをまたぐ基幹バスとデマンド交通の両方を実施する案です。最終的に3つ目のパターンを採用することになり、現在の山武市基幹バス「さんバス」とデマンド交通「あいのりくん」を新設することになりました。
実証実験は平成22年10月にスタートしました。もともと巡回バスが運行されていた山武地域のみ、利用データの正確性を期すために1年遅れでの開始となりました。実証実験中に利用者にアンケートを取ったところ、デマンドに好意的な回答が多かったため、最終的には市全域でのデマンド交通を導入する運びとなりました。
当時の市の担当者が、先行事例となる自治体を視察するなどして準備を進めましたが、デマンド交通の導入は全国的にも早い方かと思います。
システム選定は、導入費用はもちろんのこと、シンプルな操作性や分かりやすさを重視して進められました。運行にタブレット操作が必須となることを踏まえると、高齢ドライバーの方が増えている状況では簡単に操作できることが重要だからです。

登録者数は1万人ほどです。市の人口が現在約4万7,000人ほどなので、一定の割合は登録いただいていますが、「今すぐには使わないけれど登録しておこう」という方が多く含まれています。年間利用者数は延べ約3万人です。実際に利用した人数としては1,400~1,500人程度です。利用者層は70代以上の方が75%を占めています。
利用実績の推移を見ると、ピーク時は年間利用者が延べで5万人を超えていましたが、現在は3万人程度で落ち着いています。要因としては、令和元年~2年にかけてはコロナの影響が強く、令和3年以降は2回にわたり100円ずつ値上げしている影響が大きいと考えられます。
車両台数は現在9台で、県内ではトップレベルの多さだと思います。市域が広いため、特に医療機関への移動などで遠距離の運行になると1時間ほどかかるケースがあり、ある程度の台数を確保する必要があります。ただ、稼働率は高くなく、このあたりは課題でもあります。
柔軟な運用変更でサービスの質向上
――「あいのりくん」に対する利用者の声はいかがでしょうか

運行を始めてから年月が経っていることもあり、親しんでいただけていると感じます。「あいのりちゃん」と呼んでいる人もいるくらいです。愛着を感じてくださっているのでしょう。
料金については意見が二極化しています。「料金が高い」という意見については、運行開始当初から長らく300円で利用できたため、令和4年と5年に100円ずつ値上げしたことに対して抵抗感がある方が一定数いらっしゃることも理解しています。一方で、一般タクシーの利用経験のある方からは「すごく安くて助かる」という声もいただきます。
印象的なのは、医療機関へのエリア間移動を拡大した時のことです。利用者の方からいただいた手書きの手紙がきっかけの一つとなりました。手紙の内容は、その方の通院先が区域外にあり、家族に送迎を頼みづらくて肩身が狭いというものでした。家族といえど、毎回の送り迎えをお願いするのは気が引けるという方は多いのだと思います。デマンド交通があることで、そういった方々の外出機会が増え、生活の質向上につながっていると考えています。
また、早朝便の開始も利用者の声を反映したものです。市外の病院に通う場合、まず市内の駅まで出るのに「あいのりくん」を利用するケースがありますが、8時の運行開始では診療時間に間に合わないという意見があり、7時の運行スタートに変更しました。早朝の利用はコンスタントに予約が入っています。
利用者だけでなく、運行事業者の方からも好意的な評価をいただいています。それまでタクシーを利用したことのない人たちが「あいのりくん」での移動を体験することで、タクシー移動がより身近になり、利用の敷居が下がったのだと受け止めています。
利用者の声を活かした継続見据える
――サービスの今後についてうかがえますか
まず第一にサービスを維持していくことが大切です。15年続いてきたこのサービスを今後も長く継続できるようにと考えています。
一方で、利用者数を無理に増やす必要はないと考えています。本当にこのサービスを必要としている人が予約を取れなくなったり、車両を大幅に増やして運営コストが膨らむと、サービスの維持が難しくなります。デマンド交通は、本当に困っている方の受け皿として機能することが重要だと考えています。並行して運行している「さんバス」もどんどん使っていただければと思います。
今後も、利用者の皆様の声を聞きながら、ニーズを的確に捉えて利便性を高めていきたいと考えています。使った方でないと分からない不便さや要望がありますので、そういった声に耳を傾けることが、サービス改善の鍵だと考えています。
人口減少と高齢化が進む中で、地域の公共交通を維持していくことは容易ではありません。市民の皆様の生活を支える大切な足として、これからも「あいのりくん」を育てていきたいと考えています。

