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2025.12.22

“交通福祉”を目指した都市型デマンド交通の先駆け―AIデマンド交通「めぐり号」「ほたる号」「井のバス」(東京都三鷹市)

東京都三鷹市

東京都多摩地域の東部に位置する人口約19万人の市。井の頭恩賜公園や玉川上水といった水と緑に恵まれ、太宰治ゆかりの地として知られる。国立天文台や国際基督教大学など研究・教育機関が集積する文教都市で、都心から約15kmの好アクセスなベッドタウンでもある。JR中央線と東京メトロ東西線が乗り入れ、小田急路線バスが100便を超える高密度で市内を縦横に結んでいる。

お話いただいた方

東京都三鷹市 都市再生部 都市交通課 

主任 渡邊 佑馬 様

誰でも気軽に利用できるデマンド交通

――三鷹市で運行されているAIデマンド交通について教えてください

現在、三鷹市では、西部エリアと井の頭エリアでAIデマンド交通を運行しています。利用率が低下していたコミュニティバスの見直しの中で、それぞれの地区の実情にマッチした交通サービスとして導入しています。西部エリアではワンボックス車両等3台、井の頭エリアではワンボックス車両1台を運行しています。

運賃については、両エリアともエリア内1回100円で運行しています。西部エリアに限ってはエリア外の乗降ポイントとして市役所など3カ所を設けていまして、利用する場合は1回300円です。エリア外の利用については、割引制度も導入しておりまして、70歳以上の高齢者、障がいがある方、妊娠中や3歳未満のお子様を連れた方に関しては100円引きの200円でご利用いただけます。

運行日は共通で、月曜から土曜日です。日曜・祝日に関しては、市役所などでイベントがある場合には臨時に運行するケースもあります。予約は1か月前から受付をしていますが、乗車直前でも受付可能です。予約は専用のアプリと電話で行っています。

利用者は三鷹市民だけではなく、どなたでもご利用できます

――運賃が低く抑えられていて、住民でなくても利用できるのですね

運賃に関しては他の自治体と比較してもかなり安いと思います。交通サービスは使われてこそ意味があると考えているからです。三鷹市には、交通による福祉の実現を目指す「交福ネットワーク」という考え方があります。交通機関を利用した移動と、そこから生まれる波及効果を期待しており、数字に表すのは難しいのですが、外出しづらかった人が一歩外に出るきっかけになることや、経済への好影響も期待しています。

利用者を市民に限定していないのは、誰でも気軽に使ってもらいたいからです。市民限定、高齢者限定としている自治体もありますが、三鷹市の場合はデマンド交通に対する考え方がバスに近いと言えるかもしれません。

利用率低下のコミュニティバスに代わって導入

――AIデマンド交通の導入までの経緯を教えてください

以前からコミュニティバスの利用率低下が指摘されており「時代にマッチしていないのではないか」といった指摘もありました。コロナ禍以降は特に、利用率低下がより顕著になっていました。

コミュニティバスの将来的な在り方について方針を立てたのが令和3年(2021年)です。コミュニティバスの必要性も含め、いろんな地域の特性に合わせた運行について検討し、方針を策定しました。それぞれの地域に何が最適なのかを検討し、地域の方々と意見交換を重ねていきました。コミュニティバスの1路線を対象に見直しを進め、三鷹市西部の大沢地区にAIデマンド交通を導入することになりました。

大沢地区は地理的に駅から遠くて坂が多く道が狭い地域です。バス車両ではなかなか住宅地に入っていけず、地域の方々も路線バスのバス停に出るまでに坂が多くて苦労されていました。自宅近くで乗ることができて、目的地の近くで降車できるデマンド交通がマッチすると考え、令和4年に実証運行を始めました。その後、大沢地区から西部エリアへとエリアを拡大していきました。

一方の井の頭エリアは、駅から近いものの道幅が狭いエリアです。小型EVバスを定時定路線で運用する実証運行を行っていましたが、利便性の向上に課題があったことや西部エリアで好評だったAIデマンド交通の流用性が期待されたことから、令和6年に井の頭エリアでもAIデマンド交通の実証運行をスタートさせました。

利用者へのアンケートで好評をいただいていることや、地域や運行事業者へのヒアリングの結果、有効性が確認できたことなどから、令和7年2月から両エリアとも本格運行へ移行しました。

――AIデマンド交通を実施するにあたり、システムや運行事業者の選定などで苦労した点はありますか?また、どのようにサービス周知を進めましたか

三鷹市は小田急バスの路線が充実しており、交通不便が少ない地域です。一部の地方都市では、バス路線の廃線やドライバー不足などの問題でデマンド交通が導入されるケースが多いですが、三鷹市の場合は状況が異なります。狭いエリアでの交通利便性向上を目的とした都市型のデマンド交通を目指す中、当時は先行事例がほとんどなく、情報収集の段階から手探りでした。システム選定においても、高頻度・高密度かつリアルタイムでの運用を実現するシステムが必要と考えて相談先を探しましたが、当時はまだ断られるケースも多くありました。その中で現在のシステムに落ち着きました。

運行は地元のタクシー会社に担っていただいていますが、当時はまだそれほどデマンド交通が認知されていない中で、サービスの趣旨や必要性を理解し快く協力いただけたことはとても助かりました。

サービスの利用を促進するための取り組みとして、AIデマンド交通の運行内容やアプリの利用方法を周知する住民説明会や、地域の団体との意見交換を実施し、市の広報紙やホームページでの周知はもちろん、Youtubeなども活用しました。

――実証運行の結果から得られた利用状況や、利用者の反応について教えてください

実証運行期間中の利用者は、西部エリアで約28,000人、井の頭エリアで約6,000人となり、多くの方々に利用いただけたと考えています。予約はアプリの方が多く、西部エリアは約60%、井の頭エリアは50%台で、いずれも電話予約を上回っています。電話受付はコールセンター業務に対応いただけるタクシー会社にお願いしていますが、高齢の方でもアプリで予約してもらえるケースも多いです。

1日当たりの平均利用者数は、西部エリアで50~60人、井の頭エリアで約30人でした。アプリ登録者の70%以上が複数回利用しており、平均利用回数は12回を超えています。1度使えば便利さを感じて再度利用いただけるのだと思います。

利用された方からは「相乗りだと時間がかかる」「目的地まで遠回りされた」などの声をいただいたこともありますが、タクシーとは異なる乗合の移動サービスであることを説明すればご理解いただけます。

一方で、高齢の方から「買い物に行くのに自転車に乗るのが怖かったので助かる」といった声をいただくこともありました。AIデマンド交通は、移動に苦労される方に重宝され、わずかな距離の移動にご利用いただくケースがあります。このような移動ニーズがあることは新しい発見でした。これは運賃を安く設定したからこそ判明したニーズでもあります。

持続可能な交通サービス目指す

――今後の展開についてや利用者へのメッセージをお願いします

交通状況や利用状況は日々変化していくものだと考えています。サービスを提供する側や環境がどんどん変わっていく中でも、生活になくてはならないものが交通サービスです。事業者の方々と協力し、バランスをとってサービスを提供していくのが市の役割だと考えています。

デマンド交通ももちろんですが、交通サービスは使っていただいて初めて意味があります。三鷹市の交福ネットワークとの考え方に沿って、地域の方の声、事業者の方の声をしっかりと吸い上げ、市として地域をデザインしていくことで、持続可能なサービスになっていくと思います。三鷹市の場合は特に、交通の生命線である路線バスとのすみ分けを考えながら、持続的な交通サービスの提供に努めたいと考えています。

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