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2025.08.19
「マイカーがなくても移動できる行田」を目指して―乗合型AIオンデマンド交通「うきしろ号」(埼玉県行田市)
埼玉県行田市
埼玉県北部に位置する人口約8万人の街。「埼玉県」の地名の発祥地として知られる。北の利根川、南の荒川に挟まれ、国指定特別史跡の埼玉古墳群をはじめ忍城址、古代蓮の里など歴史的な観光地が有名。江戸後期から足袋の生産で栄えた名残で「足袋蔵」が点在する。
お話いただいた方
行田市役所 市民生活部 交通政策課
主査 伊藤 充洋 様
6,000人が利用登録する乗合型AIオンデマンド交通
――行田市で実証運行中のオンデマンド交通「うきしろ号」について教えてください。
伊藤様:うきしろ号は、行田市民を対象とした乗合型のAIオンデマンド交通サービスです。現在4台が稼働しており、自宅から指定乗降場所への移動や、指定乗降場所間の移動に利用できます。乗降場所に指定されているのは、公共施設や商業施設、医療施設など約800カ所で、事前に利用者登録をして電話やウェブ、LINEなどで予約できます。
現在は70代以上を中心に約6,000人の利用登録があります。昨年末まで運行していた前身のサービスであるデマンドタクシーの利用登録者をそのまま引き継いでおり、高齢の方の利用が多いですが、若い世代の方にも徐々に広がりつつあります。市の人口が約8万人なので、比較的多くの方々に利用いただいている印象です。
サービス名の「うきしろ号」は公募した候補の中から市民投票で選ばれたもので、行田市の名所「忍城址」(おしじょうし)にちなんだ名前です。
地域交通の在り方見直し 2025年1月から実証運行
――うきしろ号の実証運行スタートまでの経緯を教えてください。どのような課題があったのでしょうか?
行田市の高齢化率は県内でも高く、生活の足として公共交通の重要性が高まっています。
しかし、市内を循環するバスの一部路線は利用者が少なく「空気を運んでいる」との声も多く聞かれる状況で、収益が著しく低下していました。
また、アンケートでは、運行本数の少なさを指摘する声や「利用したい時間に運行していない」「行きたい場所まで運行していない」といった意見もありました。デマンドタクシーも運行していましたが「予約できる時間帯が短い」「予約が取りづらい」といった声が挙がっており、利便性の面でもニーズに応えきれていない状況でした。
さらに、ドライバー不足の問題が浮き彫りになっていて、サービスの担い手側への対応が必要な状況になっている背景もあります。
こうした状況の中で、持続可能な公共交通サービスの在り方として、乗合型のAIオンデマンド交通が有効なのではないかと導入の検討が始まりました。利用者の乗車予約に対してAIが最適なルートマッチングを行う乗合型のAIオンデマンド交通であれば、運転手の効率的な配置や無駄のない配車で経費削減につながります。こういった経緯で今年1月から「うきしろ号」の実証運行をスタートさせました。来年1月から本格運行に移行する予定です。
既存交通サービスとの共存を見越した調整
――既存の交通サービスとのすみ分けについてはどのように考えましたか?
もともと運行していたデマンドタクシーや、免許証自主返納者を対象としたタクシー利用助成の利用を「うきしろ号」に移行させながら、利用者が少ない市内循環バスのうち3路線の利用者の受け皿となる形を目指しました。
運賃設定では、既存交通サービスとの差別化を図りました。ドアToドアであるAIオンデマンド交通は、バスや鉄道よりは高く設定されるべき。一方で、より自由度の高い一般タクシーと比較して安い運賃設定とすることで、民業の圧迫を避けて、それぞれのサービスとすみ分けできると考えました。
「うきしろ号」の運賃は一般の方で1回あたり600円です。地域によってはより安価にオンデマンド交通の運賃を設定しているケースもありますが、サービスの持続可能性を考えると一定の収益性を維持していく必要があると考えました。
――運行事業者やシステム選定の基準、問合せ対応など運用面について教えてください。
運行における安全性と、AIオンデマンド交通サービスの運用実績を重視し、公募型プロポーザルを実施して運行事業者を選定しました。システムは運行事業者の使いやすいものが良いという観点から、プロポーザルに含めた形で提案いただきました。
高齢の方の利用が多いため電話対応は必要です。ウェブやLINEでの乗車予約も増えてはいますが、まだまだ電話での予約がメインです。電話対応も運行事業者にお任せしています。
プロポーザルの準備段階で情報収集していて、システムを使わずにアナログ管理で配車しているケースもありましたが、うきしろ号の運行はAI配車システムを前提に考えていました。実際、運行件数は多い日で80件ほどあるため、システムなしでは管理が難しい状況です。
利用者の要望を反映しサービス内容改善
――実証運行を始めてからどのような反響がありましたか?
「自宅まで迎えに来てもらえるので便利」「一律料金なので利用しやすい」「デマンドタクシーよりも予約が取りやすくなった」など好意的なご意見が寄せられました。
一方で、「予約の締め切り時間を短縮してほしい」「乗降場所を増やしてほしい」「高齢者の同伴者は利用登録なしで乗車できるようにしてほしい」といったご意見もありました。
予約の締め切り時間はもともと「乗車の90分前」の設定でした。ただ、医療機関の受診後に予約すると最短でも90分待つ必要がありますし、診療終了時間を見越して予約したくても、なかなか時間を読みにくい問題があります。
そこで、7月1日から一部運行内容の見直しを行いました。車両の予約締切を「乗車時間90分前まで」から「45分前まで」に変更しています。
また、指定乗降場所については新たに6カ所追加しています。
今後検討していくべき課題も見えてきています。高齢の利用者の付添人を利用登録なしで乗車できるように見直す案や、市外の医療機関への移動にも利用できるようにする案について検討しています。
――今後の取り組みについて利用者へのメッセージをお願いします。
交通課題の解決は、行田市において非常に重視されており、市長も交通政策を1丁目1番地と捉えています。市内循環バスや路線バス、鉄道、タクシーといった既存のサービスに、新たに乗合型のAIオンデマンド交通という選択肢が加わりました。「マイカーがなくても移動できる行田」を目指し、市民の足として気軽に利用していただけるようにサービスの維持、改善に努めて参ります。