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2022.12.19
すべての人に快適な移動を。 「Universal MaaS」の誕生秘話と今後の展望
誰もが安心安全かつ楽しんで移動ができる世界を目指して、ANAはMaaSを通して理想の社会を作ろうとしています。今回はANAが中心となり産学官連携にて取り組みを進めている「Universal MaaS」の担当者に、現在までの取り組みと、サービスを通して目指す理想の社会についてお聞きしました。
企業紹介「全日本空輸株式会社」
アジアと世界の国々をつなぐ、日本発のエアラインです。「Inspiration of JAPAN」の高いサービス品質を踏襲し、2013年から10年連続で、SKYTRAX社の5つ星を獲得するなど、持続的な企業価値向上を追及しています。
Universal MaaSとは
「Universal MaaS」について担当者にお話を伺いました!
未来創造 MaaS推進部 Universal MaaSプロジェクト
・マネージャ 大澤 信陽 様(左)
・黒岩 愛 様(中央)
・北嶋 夢 様(右)
Universal MaaSの担当者様に、リリースまでの取り組みや今後目指していきたい社会について対談形式でお聞かせいただきました。
コンセプトは「Universal design × MaaS」
——早速ではございますが、Universal MaaSについてお聞かせいただけますでしょうか。
大澤様:Universal MaaSは、ANAの社員提案制度から誕生し、京急電鉄・横須賀市・横浜国大を始めとした産学官連携、国交省事業へと展開中、現在は39者と提携して進めております。「Universal design × MaaS」をコンセプトとし、移動躊躇層はもちろん、より多くの方の移動をサポートするためのサービスを構築することで、「誰もが移動をあきらめない世界」を目指しています。
出発地から目的地まで、利用者と各事業者が相互理解を深めて連携することで、誰もが快適にストレスなく移動を楽しめる社会が実現する、という仮説に基づき、現在は2つのサービス(後述)に絞って開発を進めています。
きっかけは祖母の笑顔
——Universal MaaSに取り組むきっかけというのは、何かあったのでしょうか。
大澤様:あります。Universal MaaSのきっかけは、私の子供が生まれた際、リアルに会いたいと願っていた祖母の存在でした。祖母は当時、岡山に住んでおり、91歳の車いすユーザーでしたので、遠く離れた関東に住むひ孫に会うことを半ばあきらめていました。
車いすユーザー向けの移動サービスは数多く存在しているはずなのに、なぜかそれらを利用したがらなかったのです。理由を聞くと「誰かに迷惑をかけたくない」「いやな思いをしたくない」という言葉が返ってきました。そのとき、利用者と事業者の本音を突き合わせないことには本当に利用してもらえるサービスにはならないのだと実感しました。
——そうだったのですね。結果的にひ孫さんとはお会いできたのでしょうか。
大澤様:はい、強く背中を押した結果、ひ孫との対面が実現しました。笑顔で「生きていてよかった!生きがいになった」と言って本当に喜んでくれました。このような感動をすべてのお客様に味わっていただきたいと思ったのがきっかけでした。
構想を実現するまでの道のり
——構想を形にするために、最初にしたことを教えてください。
大澤様:初期の構想が出来上がった2018年は、仲間づくり・コンセプトづくりを中心に取り組みました。
本格的な実証実験は2019年からで、当初はひとつの独立したサービスとして提供することを想定しておりました。しかし、利用者側も事業者側もすでに使い慣れているサービスや、使っているシステムがあるため、そういったものにUniversal MaaSの考え方を採用していただくという方針に変えました。
また、数年間の実証実験を通して、“door to door”の移動における数々の課題が、「公共交通移動シーン」と「徒歩シーン」の2つに分類できることが分かり、それらの課題解決につながる機能の社会実装を目指すことにしました。
——具体的にどのような機能の実装を検討されたのでしょうか。
黒岩様:まず「公共交通移動シーン」について。通常、何らかの介助を必要とするお客様は、サイト検索や電話などでサービスの利用方法等を確認する必要があり、それだけで大変な負担になります。この課題を解消するために、各事業者の手配窓口を一元化するサービス「一括サポート手配」の開発を進めることにしました。
北嶋様:「徒歩シーン」では、自律的な移動が求められることが多いにもかかわらず、サービスが不足しており、情報もまとまっておらず粒度もさまざまで使いにくいという課題がありました。そこで、情報を集約して提供する「バリアフリー地図/ナビ」の実装に取り組み始めました。
これら2つの機能を既存サービスに組み込むことにより、「誰もが快適にストレスなく移動を楽しめる社会の実現」に近づけると考えております。
——利用者にとって移動の障壁になっていたものが解消されるということですね。機能実装のために実際に行ったことを教えてください。
黒岩様:まずは「一括サポート手配」について。さまざまな事業者間で連携することにより、今までバラバラだった介助手配依頼をひとつのサービスとして提供することを目指しています。昨年度はANA・JR東日本・東京モノレール・MKタクシーで連携し、都内⇔京阪神エリアにおいて、実証実験を行いました。
北嶋様:「バリアフリー地図/ナビ」は、経路の特徴に沿って分かりやすく色分けされた最短徒歩ルートや、自治体が保持する工事やエレベーター稼働情報、車いすユーザーが集めたバリアフリー情報や車いす走行ログ情報などを重ね合わせて構築しています。この機能は、2021年9月から、ANAの「空港アクセスナビ」に実装しております。
これらの機能を検討する際、設計段階からモニターに参加していただきながら、利用者の本音をサービス開発に活かすようにしております。
——モニターの皆様と取り組みを進めるにあたって気づきなどはありましたか。
黒岩様:議論していく中で感じるのは、好みや移動の仕方は十人十色であるということですね。当初は“車いすユーザー”のように一括りに考えていたことがありました。
しかし、様々な車いすユーザーの方々と議論を重ねる度に、価値観や移動課題が異なっており、これはもちろん、視覚・聴覚、その他全ての方々にも通じる話ですが、答えが一つではなかったのです。また、現在開発している機能が、ベビーカーや大きな荷物を持ったお客様の役に立つ機能にもなりますし、より多くの選択肢を準備することで、誰もが使いやすいサービスになるのだと気づくことができました。この考え方は、現在の機能開発のベースにもなっています。
——今後、追加予定の機能はありますでしょうか。
北嶋様:現在、視覚に障がいのある方々向けの「バリアフリー地図/ナビ」ということで、地図に代わる新たなナビゲーションサービスの構築を進めています。
例えば、カメラを見ながら遠隔でコールセンターのオペレーターがサポートしてくれる機能や、靴にデバイスを装着することで方向をお知らせする機能との連携などを想定しています。今後もたくさんのパートナーと協業しながら、さまざまな方々にご利用いただけるようなサービスを目指します。
誰もが移動をあきらめない世界に
大澤様:現在、国内だけでなく海外との連携に向けた議論も進めています。Universal MaaSの輪を広げ、年齢や特性関係なく、誰もが移動を快適に楽しめる世界を実現したいと考えています。
私もいつかはおじいちゃんになるのですが、死ぬ直前まで旅行を楽しみたいと思っています。公私ともに取り組んでいきたい事業です。
——貴重なお話、ありがとうございました。